2020年1月28日、トッテナム・ホットスパーはクリスティアン・エリクセンの放出を発表いたしました。移籍先はイタリア、インテルです。
史上最高の選手の一人
トッテナムの選手としての時間が始まったのは、2013年8月30日、いわゆる「ベイルマネー」で獲得した7人の選手のうちの一人です。その中で、いやここ10年で獲得した選手の中では最高のプレイヤーであることに異論はないでしょう。余談ですが前述の7人のうち、残っているのは遂にエリク・ラメラだけになりました。
プレミアを戦う選手にしては線が細く、最初は活躍できるのか心配でしたが、初年度からこれまで安定して結果を残し続けてきました。中盤であればどの位置でもプレーができる。常にピッチ全体が見えていて、左右両足から繰り出されるパスは完璧な質を備えています。中盤インサイドから斜めに鋭く落とすアーリークロスはエリクセンの真骨頂、強さも速さも狙う位置も、少しずれれば通らないようなボールから、いくつもアシストを記録してきました。
ファンタジスタにありがちな創造性だけの選手ではありません。いつだってエリクセンはチームの中でもっとも走る選手でした。これほどの選手がこんなに必死に守備をしてくれる。そしてほとんど怪我をしません。今のようにチャンピオンズリーグに出るのが当たり前になる前に加入して、そして6年半の時を経て、チームを上のステップに導いてくれた。何もタイトルを獲得することはできなかったけれど、もたらしてくれたものは本当に大きかった。
そんなスパーズでの活躍を受け、世界中のクラブがエリクセンの獲得を狙ってくる、かと思いきや実は活躍と比較すると移籍の噂は少ない方でした。世界でも最も過小評価されている選手の一人。そんな記事で度々名前を目にしていました。ここ2年くらいは世界的な移籍金の高騰もあり、獲得するなら相応の移籍金が必要となるのが明白だったために、それを支払えるクラブも限られてくる。スペインの2強、レアル、バルサからの関心が強まっているのは誰もが知っていることでした。
昨シーズン終了時点で移籍を半ば明言していました。年齢的にもステップアップを目指すにはラストチャンスとも言える年齢になっています。エリクセンを欠くのは痛いけど、もうスパーズの枠に収まる選手ではなくなってきていることもわかっていた。クラブとしても放出を前提に夏は動いていたはずなのに、契約残り1年の選手にしては大きすぎる移籍金を設定したために買い手がつかず、クラブとしても選手本人としても、不本意な結果に終わってしまいました。
出ていく意思があったのにそれが実現せず、いいメンタルでシーズンに入れなかった。監督としても翌年にはほぼ確実にいない選手をいつまでも中心に据えておくわけにはいかない。そんな状況の中のため、出場機会は今までにないくらい減ってしまいました。しかし、いなくなってみて初めて、いかに近年のスパーズがエリクセンを必要としていたかがわかってくる。何年も大きくは変わらないメンバーで戦い、完成度が高いだの連携に優れているだの言われていたトッテナムというチームはエリクセンありきだったことが見事に露呈してしまいしました。
得点に直結するプレーをしても、笑顔を見せることが少なくなってしまった今シーズンのエリクセンですが、彼は最後までプロフェッショナルだった。辛い状況に置かれていたことは間違い無いのに、ピッチにたてば他の選手との次元の違いを見せてくれる。思うように移籍ができなかった選手の中には練習参加を拒否したり、プレーを拒否したりする選手も少なく無い中で、エリクセンは最後まで誠実な人間であり続けました。いつも献身的にチームのために走っていたあの姿勢がクリスティアン・エリクセンという男でした。
ステップアップをしたい、大きな挑戦がしたいと言っていたエリクセンにとって、インテルがそれに当たるのかは正直疑問に思うところ。少しでも移籍金を獲得したいクラブの思惑に最後まで左右されてしまったのかもしれません。もちろんあと半年待ってから、フリーで出ていくという選択肢もあったはずです。欲しがるクラブがないはずはない。6年半所属していたクラブに対する、エリクセンなりの誠意もあったと思っています。
今年はたしかにいつものエリクセンの姿を見られたわけではなかったけど、彼はいつだってチームのためにいてくれた。この数ヶ月で評価を変えるなんてことはありえない。移籍金こそ高くはならなったけど、トッテナムとしてはギャレス・ベイル以来の大きな移籍だと思います。ウォーカーもまあ大きかったけど、個人的にはベイル、モドリッチ級の移籍です。
きっとエリクセンなら、どんな国でもどんなチームでも変わらず輝ける選手であるはず。いつか対戦相手として現れる時は少し感傷的になるかもしれないけれど、新しい土地で、いつまでも世界最高の選手でいてほしい。長い間ありがとうございました。その貢献は絶対に忘れない。トッテナム・ホットスパーの歴史上、最も優れた選手の一人を温かい拍手で送り出そう。