内容も結果も伴わなかった悲しいプレミアリーグの開幕から2ヶ月が経過し、意外なことにトッテナムは2位にまで浮上している。監督も交代するほどに散々なシーズンを経て、この状況に至ったのは夏に加入した新戦力の力が大きい。
既にチームに欠かせない存在になったホイビュアを始め、近年の補強の中ではトップクラスの成功年になった。その理由、原因をさもこれが正解だという論調で分析してみようと思う。
かつてのスパーズ
かつて、といってもポチェッティーノ時代にしか遡らないが、個人的に今まで一番強いチームだと感じられていた時期は2016-2017シーズンだった。ホワイト・ハート・レーン最終年だ。
特にチェルシーのコンテ監督が流行らせたスリーバックを採用し始めた時が印象に残っている。あの時のスタメンは今でも言える。GKはロリス、3バックにフェルトンゲン、ダイアー、アルデルヴァイレルト、中盤はローズ、デンベレ、ワニャマ、ウォーカー、最前線ケインの下に自由に動くアリとエリクセンだ。もう一つのオプションはダイアーかデンベレが抜けて4-2-3-1にして左ウイングにソンが入る形。今思えばポチェッティーノ政権のスタイルはあの年に固まっていた。
あれから丸2年ほど、怪我がない限りはメンバーが固定されていた。それはなぜか。「人に依存する戦術だったから」ではないだろうか。
もちろん、代名詞とされていたハイプレス・ハイラインだったり、様々に変化するフォーメーションだったりと、かなり戦術的にもレベルが上がってきた頃だったが、得点は選手依存だった。美しい攻撃が多く、ポゼッションしながらの崩しも多彩だったが、そのほとんどがケイン、ソン、アリ、エリクセンの4人による閃きによるものだった。
ボランチはあまり上がらずに中央低めに構え、2列目右のエリクセンが中央に来ることで前の4人は中央から左に偏る。右はウォーカーの走力にお任せだが、恐ろしいことになんとかなっていた。
チーム全体の動きとしては統一感があるものだけど、最後の局面は4人の関係性に頼っていた。狭い局面でのパス交換で崩したり出来ていただけに連携した良い崩しだと思っていたが、振り返ってみればグアルディオラがやるようなチーム仕込みではなかった。それを証拠にああいった連動したプレーは他の選手が入っても出来ないまま。阿吽の呼吸は今はケインとソンの間にしかない。
ポチェッティーノはあのチームを作ってから、ウォーカーとローズの穴は埋められずに苦しんだ。前線4人の代わりに入る選手はいつだって仲良しの外側にいるようだった。加入後すぐに活躍した選手はアリと1年目のワニャマくらいしか思いつかない。いずれもチーム作りの初期に加入した選手だ。
今年のスパーズ
それが今年はどうだ。ホイビュアは言わずもがな、レギロンは左サイドバックの1番手に躍り出た。ドハーティはもう少しやれると思うが、オーリエとの争いには僅差でリードしている。ベイルは徐々に存在感を増し、ヴィニシウスもハートも最低限こなせている。
5年間を共にしたポチェッティーノほどモウリーニョを理解できているわけではないが、思い付く違いはこうだ。
「ポチェッティーノは人に合わせてチームを作り、モウリーニョは役割に選手を当てはめる。」
モウリーニョがチームにやってきてまず変えたのは前線の選手の役割だ。ポチェッティーノは2列目の左にアタッカーのソンを置いて、右にエリクセンを置くことを好んでいた。モウリーニョは両ウイングにアタッカー気質の選手を置きたがる。少なくともこの1年はそれが一貫している。
他にも、ボランチはあまり攻撃参加させずにバランスを取ることに注力させる。ワントップにはポストプレーを求める、などが思い付く。あとは全体としては守備から入るというのもあるがこれは今回のテーマ外なので置いておく。
これらの各ポジションの役割は周囲との関係性という側面は薄いため、そこに入る選手たちは求められていることが明確で良いのではないだろうか。もちろん選ぶ選手によっての微調整はあると思う。例えばデイビスには攻撃参加はあんまり求めないとかはある。
降りて受けて展開してかつ点も取る。ケインの役割だけはどうしても特殊で、おそらく他の誰にも代えは効かないが、それ以外はとてもシンプルでそれが新加入選手でもスムーズに馴染めている要因だと思う。まああとは単純に数年積み上げたポチェッティーノと初めてのプレシーズンでこれからチームを作るモウリーニョという違いもあると思うけどね。
もう十分に力をはっきりしてるホイビュアとレギロンだけでなく、残りの新入りたちもこれから良くなっていく雰囲気があるのは非常に楽しみ。金はあまりかけていない割に今年の補強にハズレはなさそうだ。人数が多すぎる部分のマネジメントさえ間違えなければ、さらに良くなっていくスパーズが見られるかもしれない。