監督交代について思うこと

 評価の難しいシーズンを終えて、クラブ首脳陣はアンジェ・ポステコグルーを解任することを決断しました。監督交代についてと新監督について。

タイトルをありがとう

 悩みに悩んだ末の決定だとは思う。シーズン前に目標は何かと聞かれたら、多くの人は同じ答えをしたはずだ。「CL出場権の獲得と、何かしらのタイトル」と。そして誰も想像できない形でそれを達成した。プレミアリーグに残留するチームの中で最下位となる17位でのフィニッシュにも関わらず、ヨーロッパリーグを優勝することで。

 タイトルはこのチームの念願だった。巷ではビッグ6などという呼称で呼ばれながら、17年間ものあいだ主要なタイトルを獲得することはなかった。今年はニューカッスルとクリスタル・パレスもカップ戦をとったことでより焦りのような気持ちすら生まれていた。僕としては応援し始めた年くらいが最後のタイトルのFAカップ優勝だったのですが、当時は追っかけ始めたばっかりでイングランドの大会の種類も勉強中だったからFAカップ制覇のことはよく知らず、今回が事実上の初タイトルなのです。本当に嬉しかった。

 決勝を戦ったこともプレミアで優勝争いに加わったと言えるシーズンの経験もあるからこそ、最後の最後を勝ち切る難しさを僕たちは知っている。ポステコグルーが言い残した、「2位や3位では意味がなく、優勝することでしかこのクラブは前に進めないんだ」という趣旨の発言はとても実感してきた。EL決勝でロメロが見せたようなタイトルを取るための戦い方のようなものをクラブ全体で獲得するためには、勝ち抜いた経験をするしかないと思うのだ。

 そんな悲願の、と言えるタイトル獲得にも関わらず今回解任に踏み切った背景には昨年のユナイテッドの失敗があるからだとも言われている。リーグでは不調でもカップ戦でタイトルを獲得したことを理由に今シーズンも続投となり、結局のところ成績不振でシーズン途中の解任となってしまった。シーズン中なので新監督に準備の時間はなく、後を継いだファンニステルローイもクビになりアモリムになった今も状況が好転したとは言い難い。

 そんな不調仲間の教えを受けてポステコグルー解任を決めた。選手たちからの信頼だけは異常なほど厚く、まとまってはいるものの試合内容は悪くなっていく一方だったから、リーグ17位という結果だけでなく未来が良くなるイメージが持てなかったというのも否定はしにくいものだ。負傷者多発も今シーズンの低迷の原因だと思ってはいたけれど、ある程度は戻ってきた後半戦も酷い試合内容のままだったからね。

 それでもポステコグルーには感謝をしたい。そもそも就任時点でチームは最低の状態だった。守備からのカウンターが武器なチームだったと記憶している人も多いだろうが実際はそうじゃない。ロクにパスも繋げないからポゼッションはできず、仕方なく守備を固める選択をし、攻撃はワールドクラスのケインとソンに丸投げしていただけだ。それを選手の入れ替えが進む前のプレシーズンの試合からガラッと変えて、開幕からの快進撃には夢と希望を見せてくれた。上手くいかなくなってからも方針は変えず、批判につぐ批判を超えてタイトルの味を教えてくれた。そして何より、クラブのアイデンティティは攻撃的な姿勢にあるんだということを思い出させてくれた。クラブの変革という意味では十分な仕事をしてくれたと思う。良い2年間をありがとうございました。

これでチームは前に進む・・・?

 で、ここからが本日の主張でして、長くなりそうな気がプンプンしています。メインテーマのあとは新監督についても触れようと思っているから覚悟してください。

 レヴィ会長は解任について、「EL優勝パレードは信じられないようなものだった。しかしそれだけでは不十分で我々はプレミアリーグとチャンピオンズリーグでの優勝を勝ち取りたいんだ」と語りました。そのための、監督交代だと。

 これに僕は疑問がある。たしかにシーズンのほとんどの試合で試合内容が悪かった。ポステコグルーが就任時に言っていた「深夜に眠い目をこすりながら試合を見るようなことにはならないだろう」という公約が守られていたとは言い難い試合ばかりだった。しかしこれは本当にポステコグルーの手腕に問題があるからなのだろうか。監督を変えれば良いのだろうか。

 ポステコグルーはこの2年間ずっと同じことを言っていた。「勇気を持て、前に進め、攻撃をしろ」それがピッチの上で正しく表現されていたのは1年目の序盤だけで、時間が経つにつれて消極的なプレーが増えていき、今ではポゼッションのできない以前のチームに戻ってしまったようにも見える。

 ボールを失った人になりたくないからボールを受けたがらない選手が増え、ボールを持っている選手へのサポートがなくなる。サポートがないことがわかっているからボールを受けにいかない。ミスをした人になりたくないからドリブルを仕掛けたり勝負のパスを出すことはせず、無難な横と後ろへのパスを出しては誰かが点を取ってくれるのを待っているだけになる。そんな他責と無責任の悪循環が一度生まれるとそれを断ち切ることが出来なくなり、監督交代というカンフル剤で一時的に凌いできたのがポチェッティーノ退任からの6年間だったと思っている。誰が監督になっても最初のうちはその監督のやりたいサッカーが出来るのに、いつの間にか上記の無責任状態に陥っていた。

 これこそがコンテが言っていた「このチームは変わらない」の根本的な部分だと思うのだ。消極的なプレーをしてもそれを指摘する文化がない。じゃあ問題はどこだ何を変えればいんだ、選手か監督かスタッフかと言われると、答えには困ってしまう。現地にいて内部にいないと本当のところはわからないと思うからだ。ただこの仮説について今シーズンの終盤になって気がついたことがもう一つある。選手監督スタップだけでなく、サポーターも同じなんだってことに。

 ヨーロッパリーグに照準を当てたことで、リーグ戦を捨てていた時期があったね。その時は露骨なターンオーバーをしていたから、リーグ戦の方はいわゆるサブ組で戦っていた。勝敗すら求められず自分が明確なサブ扱いだとわかることはモチベーションに大いに影響していたことはもちろん想像できる。で、試合に出ている選手はその気持ちのままのプレーをしていた。このエンブレムを背負うからにはどんな負けていい試合なんてないんだ、みたいな気概はどこにもない。それどころか、試合出場の機会をチャンスと捉えて、アピールして自分の現状を変えてやるんだという熱量のある選手すら、レンタル中のマティス・テルにしかなかった。そして何より、それにサポーターが怒ることもないのが気になったのです。やる気のないプレーに対するブーイングもテルの見せてくれるがむしゃらさに対する称賛もない。全員がリーグ戦の試合はどうでも良いと思っていた。求めても無駄な労力を使うだけなんだと諦めていた。自分だけが頑張っても仕方ないよなという空気感を全員がうっすら持っている。たぶんこの対極にあるのが「勝者のメンタリティ」ってやつなんだと思う。それで良しとしてしまう文化こそが問題であり、サポーターも含めて根付いてしまっているものだったように見えた。

 これを変えようと正面から向き合ってくれたのがポステコグルーだった。道半ばでこの旅は終わり、またしても監督を変えることで改善した気になろうとしているんじゃないかという杞憂が僕の中にはある。向き合うべきはどこかにある文化や空気感の根源であり、監督なんて表面上の瑣末に過ぎないんじゃないだろうかと。まあ自分でこう言ってはいるものの、何をどうすれば良いのかという策が浮かんでいるわけではないので、フロントを批判するのも難しい。首脳陣としても何もしないでユナイテッドのようになるわけにはいかないだろうから。

 おそらくトーマス・フランク監督も最初のうちは良くなっていくチームが見られるとは思う。今いる選手は17位で終わるような能力の選手たちではないと信じているので、一定の成果は上がる。ただもしある程度の時間が進んだのちに、同じように他責・無責任が顔を出してきた時には今日の話を思い出してほしい。これは当然のことだけど、そんな時が来ないことを心から願ってはいます。

とはいえ楽しみな新監督

 さて、暗い話は終わりにしよう。新しい監督はブレントフォードを率いていたトーマス・フランクに決まった。決して安くはない違約金を支払っての引き抜きだ。ちなみに新監督が決まった時にトーマス・フランクか・・・と少し複雑な気持ちになりました。いや、実績はもちもん申し分ないしブレントフォードを見ていて素晴らしい監督だと思ってはいるのですが、個人的に限られた戦力のクラブを巧みな手腕で躍進させる監督やクラブはうっすらと応援しているので引き抜いちゃうのはもったいないなと。まあこれは噂に上がっていた他の監督にも言えることなんですけどね。

 自身はプロ選手としてのキャリアはないそうです。デンマークで監督キャリアを初めて2016年に当時チャンピオンシップ(2部)にいたブレントフォードのコーチに就任する。2018年には監督に昇格し、3年目にプレーオフを勝ち抜いてブレントフォードを初めてのプレミアリーグ昇格に導きました。プレミアリーグでの成績は13位、9位、16位、10位です。ここ数年の昇格組の成績を見ると残留しているだけでも十分なのに今は降格を争う印象のないクラブになりました。凄いことよこれは。

 そんなに詳しいわけではないという前置きはしつつ喋ります。昇格からしばらくはしっかり守ってカウンターで「蜂のひと刺し」(クラブのロゴが蜂)する厄介者というイメージだった。相手によってフォーメーションを変えているのも印象的で、強豪と見ると3-5-2でカウンター、同格以下と見ると4-3-3で主導権を握りいくという挑戦もしていた。しばらくスパーズでは自分のスタイルが明確な監督が続いていたので、いろいろ試してもらえると見ていた楽しいなと思ったりもしている。ただ、ブレントフォードで複数の作戦を使い分けられているのも、フランクが何年もかけてチームを作り上げてきたからだというのも忘れてはいけない。わずか半年ほどで誰が出ても組織だった動きができるチームになっていることを要求するのが監督の定まらないクラブの悪いクセなのでね。

 あとは若い選手を育てられる監督という評価も今回の引き抜きに繋がっているところ。ブレントフォードでは資金力的にもそうせざるを得なかったという側面はあるものの、主力が抜けても今いる選手を伸ばしつつ最適解を導いて戦えるというのはスパーズに合っている。そうした育成でフランクの側近として働いていたスタッフごと引っ張ってきたらしいので、若手の成長にも期待したい。

 不安な点として話題に上がるのはヨーロッパの大会の経験値がないことと、評価されているとはいえプレミアでの最高順位が9位であるということかな。基本的には1週間の準備期間があったこれまでとは違い、CLに出ているとシーズン中に練習で何かを深めるということは難しくなっていく。あとはローテーションも必要で、そうしたマネジメント部分は最初は大目に見ていた方がいいかもしれない。ポステコグルーですら2年目の終わりにようやく選手を休ませるようになったし、実際に経験しないとベストな方法は見つからないだろうから。プレミアの順位については偉そうなことを言える立場にございません。何せ17位のクラブでして来年は降格さえしなければ今年以上なので。

 まだあまりインタビューに答えたりもしていないようだけど、最初に話してくれたのは「攻撃的なチームを作りたい」っていうこと。現地のサポーターはポステコグルーを通ったことで、攻撃的なチームでありたいと気持ちが回帰しているだろうから、そうでないと受け入れられなそうではある。それをどう実現するかだね。個人的には自分たちのサッカーというものに対して極端すぎる監督の後なので今いる選手を生かしつつ組織的であってほしいというくらいかな今は。なんか当たり前のことを言っているようだけど、当たり前じゃない2年間だったからね。

 こんなところにしておきます。執筆のリハビリにしてはだいぶ長くなりまして読んでくれた人もすみません。クラブを本気で応援しているからこそ、その一挙手一投足に思うところはあるものです。監督が変わろうが選手が変わろうが文句言いながらついていくぜ。周囲のクラブと比べるとなんの動きもない相変わらずのスパーズの移籍市場での立ち回りにヤキモキしつつ、しかし唐突に予想もしない公式発表が出ることを楽しみにして開幕を待ちましょう。

スポンサーリンク
NO IMAGE
最新情報をチェックしよう!
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。