トッテナムへの移籍が発表された高井幸大について、現状を考えてみます。
※この記事は先週から書いていたものなので、一部状況が変わったものがありまして、適宜補足という形で書き足してお届けします。
センターバックの現状は
高井の移籍が決まった日には喜びの気持ちを書きました。今回はややドライに、高井がどのくらいの立ち位置にいるのかを考察します。ちなみにトッテナム・ホットスパーというクラブ名ですが、スパーズという愛称があってこれが割と一般的なので、記事内ではスパーズと呼びます。もしかしたらこの記事は普段はプレミアリーグを見ていない人の目にも入るんじゃないかと思うので注釈させていただきました。
スパーズは先月に監督が変わったばかりなのです。新監督のトーマス・フランクは前のクラブでは試合によって4バックと3バックを使い分ける監督でした。スパーズでも同じようにするのか、どちらかに固定するのかまだ分かりません。つまりセンターバックの枠が2つなのか3つなのかまだ見えてこないのです。それにセンターバックにどんな能力やプレーを要求するのかも不明です。という前提のもとではありますが、率直に高井がセンターバックで何番手に位置するかと言いますと、6番手になります。正確には6番手争いです。昨年もトップチームにいたセンターバックが5人いて、高井のような若手は3人が既にいるので。
簡単に紹介します。昨年まで見ていた人は読み飛ばしてくださいませ。
クリスティアン・ロメロ(アルゼンチン・27歳)
2022年にワールドカップを制覇した時のアルゼンチン代表のセンターバック。実に南米らしいハードなタックルが持ち味。実力は世界トップクラス。昨年の副キャプテンだけど移籍の噂もある。
ミッキー・ファン・デ・フェン(オランダ・24歳)
DFに限らず、プレミアリーグの歴史上で最も足が早い選手、しかも高井より大きい193cmのビッグサイズ。数年後に世界最高のCBと言われていてもおかしくない。筋肉系の怪我は多め。
ケヴィン・ダンソ(オーストリア・26歳)
加入半年のファイター。スピードやパワーはハイレベルで、比較的馴染むのが難しいと言われるプレミアリーグでもあっという間に順応した。ここまで上記3人の壁はとても高いと思われる。
ラドゥ・ドラグシン(ルーマニア・23歳)
スパーズではやや苦戦しているが、代表での存在感がこの若さで別格だったので新監督の使い方次第では化ける。ただし今は怪我で長期離脱中。2025年中には復帰予定。
ベン・デイビス(ウェールズ・32歳)
クラブ最古参のベテラン。本職は左サイドバックだが、近年はセンターバックでのプレーが多い。他の選手ほど身体能力に優れてはいないものの、技術と知性で守るタイプ。左利きなのはファン・デ・フェンとデイビスだけ。
ここからは昨年はトップチームにいなかった若手たち。
アシュリー・フィリップス(イングランド・20歳)
学年で言うと高井の一つ下。2年前に加入してからレンタルで修行を積んできた。昨年はチャンピオンシップ(イングランド2部)でプレー。サイズ的にも高井に近い雰囲気がある。
アルフィー・ドリントン(イングランド・20歳)
こちらも高井の一つ下。アカデミー出身で昨年はスコットランドのアバディーンにレンタル。※来シーズンもアバディーンにレンタルすることが決まりました。
ルカ・ヴシュコヴィッチ(クロアチア・18歳)
16歳の時に契約を結んだ超逸材。ポーランドとベルギーのクラブにレンタルして武者修行。既にクロアチア代表の出場歴もある。今のところこの3人の中では一番トップチームに近そう。ちなみに移籍金はおよそ1500万ポンドほど、高井の3倍です。
と言うわけです。シニアの選手は歴戦の強者たち。若い3人も期待はされていて、高井はまずこの3人と比べたら1番という立場を目指さなければいけないはずです。高井はフロンターレで主力として試合の経験はたくさん積んでいますが、他の選手たちも全員レンタル先では出場機会を得ているはずなので、その点でも差はありません。
※昨日行われたプレシーズンマッチの初戦、レディングとの2-0で勝利した試合で後半から出場したヴシュコヴィッチが1ゴール1アシストと猛アピール。高井はベンチ外でした。フィリップスはベンチにいたので今時点での序列は8人中8番目かもしれません・・・
移籍金から考える立ち位置
報道によると高井の移籍金は500万ポンドだと言われています。これはJリーグの選手に対しての過去最高額だそうです。ちなにみこれから他の選手と比較してみますが、日本円に変換することに意味はないと思っているのでポンド表記で行きます。何倍くらいとかで見てください。
500万ポンドが高いのか安いのかという議論があります。はっきり言って安いです。Jリーガーに対しての最高額という点は、評価や今後の出場機会に対しては何も影響を持ちません。むしろこのくらいの金額であれば、公式戦でさほど出場のチャンスを与えることがなく放出になってしまっても痛くないと言えるほどです。現地のサポーターの関心と期待はほとんどないと思われます。だから高井はまず、サポーターの目を自分に向けさせるところから始める必要があるのです。
では、近年の他の例を見てみましょう。具体例が出た方がわかりやすいと思います。
6月に獲得した20歳のマティス・テルはおよそ5000万ポンドでした。バイエルン・ミュンヘンに所属していた左ウイングやセンターフォワードの選手で、21歳以下のフランス代表にも選ばれています。今年の1月から半年間のレンタルでスパーズでプレーしていました。目立った数字は残していません。
バイエルンでもサブからの起用が中心で、出場機会を求めてスパーズに来ました。うちは怪我人が多い時期だったのでそれなりに出番はありましたが、攻撃の選手に期待される数字は物足りないものでした。それでも将来性を買われてレンタル料の1000万ポンド+完全移籍金4000万ポンドで合わせて5000万ポンドほど。ちなみにこれはプレミアリーグでも大金です。ここで伝えたいのは、まだ大して結果は残していないけど、期待値だけでこの評価額をつけることもあるということです。
続いて昨年の夏に加入したアーチー・グレイ。当時18歳のボランチに4000万ポンドを支払いました。チャンピオンシップ(イングランド2部)のリーズ・ユナイテッドの主力ですが、2部でも高井の8倍です。こちらも負傷者が多かったチーム事情もあり、昨年の出場機会は多かったもののスタメン争いが出来るほどにはまだなれていません。
日本人の移籍という目線で見ると、500万ポンドは高額ですが、このように10倍近い金額を主力になれるか未知数の選手に投資する世界です。現時点での期待値がどのくらいかはわかってくるかと思います。
しかし金額が全てと言うつもりは当然ありません。グレイと共に昨年の夏に加わったルーカス・ベリヴァルの例があります。ベリヴァルも当時は18歳でスウェーデンリーグからやってきました。他の人と比べると控えめな1000万ポンドほどです。足元の技術に優れた攻撃的なミッドフィールダーですが、シーズンの序盤は本当に苦しんでいました。プレミアリーグのスピードについていけず、判断ミスを連発しそれが失点に直結したことも1度や2度じゃない。これは厳しいな、冬には他のクラブへのレンタルかなと思った頃、少しずつプレーが良くなりそこからは急成長、なんとファンが選ぶシーズン最優秀選手に選ばれるほどの絶対的な存在になりました。ベリヴァルの良かったところは、ミスをしてもそこから逃げなかったところ。無難なパスを選ばずに、前を向いたドリブルやパスを続けたことで判断力が磨かれました。ここでミスを恐れて消極的になっていたら、おそらくその先はなかった。高井にだって最初から完璧を求めてはいません。必ず失点に直結するようなミスをするでしょう。もしかすると一つのミスで出番は減るかもしれません。それでも上に上がるためには、チャレンジを続けて欲しい。ミスをしないだけでは評価されません。守備では相手に積極的に食らいついてボールを奪い、攻撃では難しい縦パスやロングパスを通せるようにならないといけません。攻守に難しいプレーを選択しながら、ミスの少ない選手が生き残れる世界です。
厳しい言い方をすると、現時点での高井には移籍金程度の期待しかされていないはずです。最低でも4人は欲しいセンターバックの4人の頭数には入らない。なので今シーズンのうちに出場機会があれば良いよねというラインです。試合数が多いからカップ戦とかでチャンスがあるはずという意見も見かけますが、そのローテーション要員にすらなれないかもしれません。出場ゼロに終わっても全く驚きではありません。
じゃあこの移籍はなんなのか。正直に言ってスパーズからするとほぼノーリスクの投資です。戦力になればこんな良いことはないし。通用しなければレンタルに出し、そこそこやれてくれれば500万以上では売れる。リスクは特にありません。21歳以下はプレミアリーグに提出するメンバー登録に含めずに起用できるため、枠を埋めてしまうということもない。むしろ登録枠を消化する年齢になる前に力を認めさせないと立場は怪しくなります。じっくりゆっくり何年も待ってくれはしないと思うので。
今までもJリーグからいきなりのビッグクラブという例はありました。マンチェスター・シティに板倉滉、食野亮太郎、アーセナルに稲本潤一、宮市亮、浅野拓磨、バイエルンに宇佐美貴史など。この中でクラブに定着して活躍した選手は一人もいません。高井にはどうかその前例を打ち破ってほしい。今日は色々言いましたが、めちゃくちゃ応援しているし、期待もしています。