2025年9月4日、トッテナム・ホットスパーは会長のダニエル・レヴィが辞任することを発表いたしました。
想像つかないよ
朝起きたら衝撃のニュースが飛び込んできた。「ダニエル・レヴィ会長の退任」まったく予想もしていなかったし、これまでそんな噂なんてかけらも聞こえてこなかった。現地のファンにはいわゆる”Levy Out”という旗を掲げた人たちがいるのは見たことがあるが、あれは声が大きいだけの一部のファンの話で、具体的にクラブ内部での動きがあったとは聞いていない。詳しいことはよくわかっていないのだけど、新しい偉い人が加わったことがニュースになっていたり、レヴィの持っていた権限にも変化があったりと今思えばこのための準備だったのかと思える話題はあるにはあったが、応援し始めてからクラブの買収や会長の交代を経験したことがない身からすると寝耳に水、青天の霹靂だった。
自分の認識がどこまで正しいのかは自信がないが、このクラブを応援したいと思った理由はレヴィに依るところが大きいのだと思っている。人気も資金力も上回るライバルたちに挑戦するための長期的な経営戦略をスパーズが選んできたのはレヴィの影響力だと思ってきたからだ。トッテナム・ホットスパーというクラブの伝統とかそういうものではなく、ダニエル・レヴィというビジネスマンの方針なのだと。それが今、あまりにも唐突に変わろうとしている。この先どんな変革がなされるのかはわからないが、少なくとも大きく変わっていく。今の安定思考からリスクを冒して上を狙うフェーズに行くのではないだろうか。今の体制のままではおそらく起こり得ないであろう失敗と崩壊の可能性を孕みながら。
在任期間は25年、僕はそのうちの17,18年くらいを見てきたことになる。プレミアリーグの中位を彷徨っていたチームをまずは安定させるべく、若くて知られていない選手を発掘しては売るクラブだったのは2010年代前半までの話。それがハリー・ケインというスターがアカデミーから登場したことで、優秀な選手を留めて上を目指そうというフェーズに入ったのが2010年代の後半だった。野心を託されたケインの活躍もあり、プレミアリーグでの優勝争いやチャンピオンズリーグの準優勝といった成果を残した反面、あと一歩タイトルには届かなかった。不運だったのはちょうどこの時期に、クラブの収入を大幅に増やすための新スタジアム建設計画が同時に走っていたことだ。クラブの雰囲気を盛り上げることには一役買ったものの、スタジアム建設費用を支払うために補強にお金を使うことが出来なくなってしまった。他のクラブなら資金繰りを苦しくしても補強を断行したかもしれないが、それをしないのがレヴィという会長だ。それがサポーターの不況を買ってしまった。
もうタイトルが目の前まで来ているのに、それでもお金を使わないのか、そんなに自分の儲けが大事かと。レヴィの私生活までは知らないが、スパーズの経営に携わることで私服を肥やしている人間であると思ったことは一度もない。いろんなところから、本人も生粋のスパーズサポーターであるというエピソードが聞こえてくる。そりゃ他のビッグクラブに比べれば補強にお金を使っていないのかもしれないが、世界的な認知度や人気ではまだ劣るスパーズがリーグの順位で並んだだけで同じような収益を上げられるわけではないのだ。一夏の移籍に大金を投じたおかげで数年後に倒産のリスクから主力を売るハメになり、一気にチームが崩壊する可能性だってあるのだ。レヴィはそうしたギャンブル投資をする前に地盤を固めて、収益を増やして着実にチームを強くする道を選ぶ人だったというだけだ。何が正解だったのかは誰にもわからない。でも少なくとも、ビッグ6と呼ばれるような存在にスパーズを押し上げ、新スタジアムとその周辺の設備の構築を行ったことで安定的な収益を得られる状態に持っていってくれたという事実は残っている。この功績は否定できないだろう。
現地でさ、”Levy Out”を唱えていた人たちは、これでチームが良くなるぞという期待感と同じくらい不安に苛まれているんじゃないかと思うよ。上手くいっていない理由を全てレヴィのせいにしていた時までは、それが正しい主張なのかどうか誰にもわからなかった。しかしこれでお望み通りレヴィはいなくなり、彼らの主張が正しかったのかどうかがわかってしまう。一時的には次の体制で大きな補強を行なったりして、前任者とは違うぞっていう空気にはなるだろうけど、そのやり方を取れば上手く行くかどうかは数年後にはっきりしてしまうのだ。
個人的には外部からの資金流入で強くなるやり方が好きじゃなくてこのクラブを応援し始めているから、これで買収とかで大金を使うようにはなってほしくないなとは思っています。もちろん、健全経営の上で今までよりも稼げているから使えますというのなら良いことです。まあ今更どんな方向に向かったとしても、応援するクラブを変えたりすることはないと思うので、どうあってもついていくのみなんだけどね。
ソンの退団が決まった時に、ここからスパーズは新時代だって思ったし書いたけど、レヴィの一件はそれ以上に大きなインパクトがある。この先どんなふうにクラブが変わっていくのか全く想像がつかない。今までのスパーズとは確実に変わっていくんだろうけど、どんな未来になろうともサポーターに愛されて、エンブレムに誇りを持てて、毎週末を楽しみにできるままでいてほしい。
レヴィ会長お疲れさまでした。あなたの信念のおかげで充実のフットボールライフを送れています。これから1サポーターとして、一緒に応援していきましょう。