2324シーズンの打ち上げ

2023-2024シーズンが終わりました。クラブ関係者の皆様、サポーターの皆様、大変お疲れ様でございました。総括といえばカッコつけすぎな気がするので、シーズンの感想と言っておきます。長いからお酒でも飲みながら読んでください。乾杯。

これは物語の始まりなのです

 サッカーのワンシーズンって短いようで長いじゃないですか。8月に始まって翌年の5月に終わる。感覚的にはプレシーズンのキャンプが始動したあたりからを今シーズンと認識していることもあって、その場合は7月から数えて実質10ヶ月間がワンシーズンということになる。この間にチームは40試合から60試合くらいを戦っていて、毎試合の気持ちの浮き沈みがあり良い時期も悪い時期も共に乗り越えていく。どうですか、去年の開幕期に何を期待していたか覚えていますか。8位に終わったシーズンを経て、今年の目標は何位でしたか。

 こう長いシーズンを戦っていると、最後に抱く感想は終盤の気持ちをそのまま引きずってしまいがちだ。着地の7試合を2勝5敗で終えたので、失速や停滞感が印象としては残ってしまったかもしれないが、今一度冷静に振り返りたい。トッテナム・ホットスパーにとっての2023-2024シーズンとはなんだったのかを。

 昨年はアントニオ・コンテ監督の下でシーズンを始め、ライアン・メイソン暫定監督に切り替えてシーズンを終えた。数年続いた守備的で退屈なサッカーにサポーターは不満を募らせ、チームに結果がついてこなくなったところでコンテが癇癪を爆発させてチームを去った。メイソンはその後を引き継いで、結果よりもいわばサポーターのご機嫌を伺うように攻撃的な姿勢で戦うことを目指しチグハグとシーズンを終えた。そんな1年だった。

 モウリーニョ、コンテと世界有数のビッグネームが続いていたスパーズが次に選んだのは オーストラリア人のアンジェ・ポステコグルーだった。我々日本人には馴染みのある名前だが、どうやらセルティックでの監督経験くらいではイングランドでは無名扱いらしく、就任時点で現地サポーターからの批判の声は大きかった。かくいう自分も日本人を重用してくれている人、以外の認識を持っていなかった。

 そんな不安、不満をプレシーズンマッチの初戦で吹き飛ばしてくれたのは痛快だったし、それなりに衝撃的だった。勝敗なぞどうでもいいプレシーズンではあるものの、あの守備的で面白みのない白黒映像のようなスパーズのサッカーに革命をもたらしたことがはっきりとわかったのだ。壊滅的だったはずの後ろからのビルドアップがスムーズに出来ている。今やお馴染みとなったサイドバックの攻め上がりも目新しく、何よりこの手のスタイルにまだ新加入選手もロクにいない中で既存の選手たちが出来ていることが驚きだった。なんかスパーズっていい選手たくさんいるじゃんって思ったのを覚えている。なんかみんなサッカー上手だなって。

 開幕戦でこそブレントフォードに引き分けたものの、そこからチェルシー戦まで快進撃は続く。年末年始は負傷者に悩まされ急失速となり、やや立て直すも安定感や序盤の強者感は戻らず、最終盤の強豪との連戦には全て負けて1年が終わった。結果は5位。昨年の8位から3ランクアップである。ヨーロッパの戦いがなく比較的日程的には有利だったことも含み、これをどう考えるのか。

 ところで話を変えるようで変えないんだけど、今シーズンを語る上で欠かせない開幕期のニュースを思い出してほしい。このサイトではあまり触れないようにしてきたのだけど、久しぶりに言おうと思う。今シーズンは「ハリー・ケインがいないシーズン」だったはずだ。 チームの象徴であり中心の中の中心。誰ぞに「チームハリーケイン」なんて言われていたこともあって当時は反発したものだけど、まあおよそ間違えてはいないくらい、ケインのいないチームなんて想像できないものだった。もう何年も移籍の話題があり、それがついに実現してしまった。それも開幕戦の前日に。

 ここで書いたかは覚えていないけど、シーズン序盤は試合を見るたびに思っていたことがある。実況や解説の人が試合を通じて、ケインの名前を1度も出さなくなるのはいつになるだろうなって。今シーズン中に彼の亡霊を消せるのかな、無理かな来年かなって。

 これ、結構早い段階で実現したよね。いや明確にこの試合だってカウントしていたわけではないんだけど、多分あの最初の10試合の時期にはそうなっていたと思う。少なくとも今は聞かない試合多いでしょ。ケインのことなんて忘れて試合を戦っていたでしょ。これは本当にすごいことだと思う。ケインがいなくても世界が回るなんて想像するのは難しかったのに、あの10試合の快進撃の時にはもう、みんなが集中して今のチームの凄さを、アンジェ・ポステコグルーの凄さを語っていた。アリがいれば、エリクセンがいればウォーカーがローズがと過去を振り返って嘆いたいたここ数年とは違うことが実感できた。これこそがチームを再構築しているということなのだと理解することができた。前に進んでいるんだと歩みを強めることができた。

 ケインロスを払拭できたということだけでも、今シーズンは成功のシーズンだったと僕は思う。今年も上手く行かずに途中でポステコグルーが解任でもされていたら、未だにケインの話をしていただろうから。8位で終わった翌シーズンにエースを失い5位に上がった。プレースタイルは見ていて楽しいものに変わり、今後もこれを続けると監督が言っている。椅子にもたれかかって死んだ目で90分が過ぎるのを待っていた昨年を思い出せば、前のめりに試合を見ている自分の変化こそが、今シーズンの評価だと思ってる。楽しいと思ってシーズンを終えられたことが本当に嬉しい。

 課題は際限なく思いつく。目新しかった新スタイルへの対策を打たれた時の手詰まりをどう打開するのか。負荷の高いやり方で戦うために層を厚くしないといけないができるのか。攻撃に振り切っていれば守備の改善もされていくのか。セットプレーで点をとり、守れるようにはなるのか。もっと粒度を下げて考えればいくらでも出てくる。これらは全て、課題であり伸び代だ。

 ダニエル・レヴィ会長はよく、財布の紐が硬いことで批判を受けていたが、ただの強欲なケチではない。お金の使い方にリーグが厳しくなってきて、実際に勝ち点剥奪のようなペナルティも行われている中で、スパーズが数少ない(唯一だっけ?)優良経営のクラブであり今夏の移籍市場で強気に振る舞える状況にあるために、サウジアラビアのクラブほどにはならないがスパーズ基準では期待できる夏になりそうではある。

 あとはポステコグルーの信念は極めれば高みへ到達できるものであるのかという部分が肝心だ。選手もスタッフもサポーターもが、迷いなくそれを信じて突き進んだ時にだけ、花ひらく様なスタイルなだけに我慢強さが試される。これはある種の信仰だよ。やり方の細部に意見があっても良いが、決めたら迷っちゃいけない。良い監督を最大限にサポートすれば結果はついてくるんだということは近年のプレミアリーグで証明されている。だからこそ信じてみたい。

 クロップがリヴァプールを去り、グアルディオラも来期いっぱいでの退任を匂わせている今、プレミアリーグは久々の変革期にある。かつてのユナイテッドとアーセナルがそうだったように、長期政権の監督の後任が同じような成功をすぐに収めるとは想像しにくい。となれば、来たる戦国時代に向けて、着々と準備をしていきたい。そういう意味では今のスパーズはとても良いポジションにつけていると思う。

 素直に考えれば次世代の筆頭はアーセナルになるだろう。ただ、若いとはいえそれなりに完成されつつあるチームがそれを維持し続けることができるだろうかは疑問に思う。5年前のスパーズのように今がピークである可能性だって全然あるのだ。となればスパーズ、チェルシー、ニューカッスルあたりの構築中のチームにも大いに希望がある。ユナイテッドは・・・なんかコメントに困るね。

 まあ長々と書いてしまったけれど、今期は新時代のスパーズの始まりのシーズンとしては十分満足のいくものだったと思っているよ。CLに行きたかったとは思うものの、まずはELって考えれば、1歩1歩進んでいく感じがしていいじゃない。試合を応援するのが楽しくなったというだけでもポステコグルー体制には感謝してる。またこれで強くなっていくであろうと前を向きながら進んでいける。

 今年も1年お疲れ様でした。ここからは移籍の噂に踊らされながら新シーズンを待ちましょう。幸い今年はユーロにコパにオリンピックがあるから、退屈はしないでしょう。放送あるかはわからないけどね。

 

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