2021年8月27日、トッテナム・ホットスパーはフランス代表、ムサ・シソコがワトフォードに移籍することを発表いたしました。
強くて不器用な男だった
ムサ・シソコ。長くフランス代表に選ばれている選手でありながら、クラブ経歴はデビューのトゥールーズからニューカッスルを経てスパーズに来るという比較的地味なものです。にも関わらず、なんかよく知られている選手だ。広く愛される選手だったと思う。
印象的だったのは2016年のユーロフランス大会でしょう。やたら体の大きい右サイドハーフがパワーとスピードで右サイドを支配している姿は多くの人の記憶に残ったはず。おそらくトッテナムが獲得を決めたのもあの大会での活躍があったから。
同年にスパーズに来たものの、初めの頃は期待外れに終わる。というのも4-2-3-1の右サイドハーフでの起用を目論んでいたと思われる中で、あの頃の前線はケイン、ソン、アリ、エリクセンの4人が華麗なコンビネーションで得点を量産していた時期だった。繊細なチームワークに無骨なシソコが馴染むことは難しかった。
補強は失敗ですぐに放出になるかと思っていたけど、その後もチームに残っては途中出場でそれなりに出番は得ていた。が、もう諦めた方がいいんじゃないかというパフォーマンスが続いていた。
しかしダブルボランチの一角にコンバートされるようになると、徐々に存在感を増していく。攻撃を期待されていたシソコの適正は意外なところにあった。プレミアでも屈指の屈強な肉体を生かし、中盤でボールを奪うとそこからのパワードリブルでボールを運んでいく、パスやシュートが最後まで向上しなかったのはシソコの愛らしいところですかね。
キックが上手くならないので攻撃はやや控えめに、上がっていくサイドバックのポジションを埋めたりと献身的なプレーで輝くと、いつの間にかサイドバックをも任されていた。シソコの良さはどこにあるのかと聞かれれば、パワーでもスピードでもなく、チームへの献身的な貢献というだろう。スパーズに来てからのシソコはそういう選手だった。
選手にもサポーターにも愛される選手で、「オー、ムサシソーコ」のチャントは公式のSNSでもよく上がっていたし、サポーターもスタジアムで頻繁に歌っていた。それこそ、シソコが出ていなくても歌っていた。
中盤に足元の技術を求めるようになったせいで、シソコは序列を落としてしまったが、別に年齢による衰えとかはまだないと思います。テクニックは前からなかっただけ。ちゃんと理解してあげて起用すれば、まだまだプレミアで厄介な仕事はできるはず。残留が目標になるワトフォードのようなチームならなおさら重宝されるだろう。
今のサントの中盤にハードワークを求めるスタイルならそれなりにやれた可能性はあるけど、まだ戦えるうちに出場機会の見込めるクラブを見つけられたのは良かったと思います。お互いにいい移籍になったんじゃないかな。
明日の出場があるかは微妙だけど、遠からずリーグ戦の舞台で再開することになる。是非ワトフォードを残留に導いて来年以降もプレミアで見られますように。お世話になりました。オー、ムサシソーコ!