ネットを少しくるくるやるだけで、プレミアのファンたちの煽り合いをよく目にするようになった。スパーズのライバルクラブといえば、まず浮かぶのはアーセナル。ここ数年はチェルシーとの関係もライバルのそれになってきた。それらのファンとのファン同士のやり合いが頻繁に起こっている。
これは文化としてはあるべきなのかもしれないが、個人的には辟易している。他にやることないんか。まあ他にネタがない時期なのは理解できるけど。
あれをニュートラルなプレミアファンや最近スパーズが気になり出しているファン未満の方々が見たときにどう思うだろうか。楽しいやりとだなと、魅力的なクラブだなと思ってくれるだろうか。きっと子供じみたかっこ悪い喧嘩にしか見えない。この一人に数えられるのは嫌だなと、きっと思われるぜ。
ライバルクラブとの戦いはフォロワー15万人の我らのボスに任せておいて、考えて欲しいことがある。
「スパーズってどんなクラブ?」
君はこれに答えられるだろうか。
クラブに哲学・信念などあるのか
クラブ哲学、という概念が世に広まったのはきっとバルセロナの影響だろう。特にグアルディオラ時代のバルセロナはポゼッションを重視した攻撃スタイルで世界を席巻し、そのスタイルは下部組織から一貫されたものだったこともあり、「バルセロナの哲学」として世界に浸透した。
そうしたムーブメントは世界中で起こり、フットボールクラブを唯一無二の存在とするためのイメージ戦略として取り入れられていった。
さてそんな中、トッテナム・ホットスパーというクラブを説明するときに、なんと言うのが適切なのだろうか。先にいっておくがこの記事に答えはない。ぜひ一緒に考えていって欲しいと思っている。
かつては「Spursy(スパージー)」という言葉があった。残念なクラブ、くらいの認識だ。いい試合をしていても、最後にはミスを犯し勝利を逃す。いつも順調そうに見えるのに、どうせ上手くいかないだろうというクラブの雰囲気を揶揄する言葉だった。
その言葉も、ポチェッティーノによって過去のものにされた。結果の出るチームになった。「Spursy」が”順調な中でつまづきのある”状況を指すのなら、”苦しくても最後には勝っている”、いわゆる勝者のメンタリティを勝ち取ったかのように見えた。しかしそれも今シーズンを見るに怪しいものだ。
プレースタイルに着目しよう。近年のスパーズで一番使われていたのはおそらく「ハイプレス・ハイラインを軸にショートカウンターを決める」というような説明だ。でも実際そうだったのはポチェッティーノ政権の最初の2年ほどだけで、時間が経つにつれ、ポゼッション重視の戦術や、引いて守ってロングカウンターにと変化していった。
イメージとして定着しつつあった「ハイプレス・ハイライン」も、結局はスパーズの信条ではなく、ポチェッティーノらしさだった。それもポチェッティーノの持つ引き出しの一つにすぎなかった。
思えば「スピーディなサイド攻撃を中心にした攻撃サッカーで、最後には勝っている」ユナイテッドのイメージも、ファーガソンのアイデンティティだったということが退任後、わかってしまった。
戦術や戦略は日々進化しており、100年変わらずに通用する正解などない。で、あれば、ピッチ上から”らしさ”を見出そうとするのは難しいかもしれない。どんなクラブであれ、哲学にこだわるあまり降格するくらいなら、その信念を曲げるだろう。どのチームも「勝利を目指す」というフットボールの目標の前では綺麗事を保てないのだ。
では、経営面はどうだろうか。
収益度外視の補強は行わず、育成や発掘に力を入れる。若手を積極的に登用し、健全な経営の中で勝利を目指す。
のが、今のトッテナムだろう。ダニエル・レビィが会長になっておよそ20年、クラブはこのやり方で成長してきた。レアル・マドリーやマンチェスター・シティのような金満スタイルが好きじゃないという人はスパーズファンには多いだろう。自分もかつてスパーズに決めた理由の一つにそれがあった。
ではこれがスパーズらしさなのだろうか。少なくとも、スパーズを知ってからずっとこのスタイルしか知らない自分にとって、人にスパーズを説明するときにはこの話はするかもしれないと思う。しかしお隣が、ベンゲル退任後に金を使うようになったように、あくまでもこれはレビィのスタイルであると言うことは出来てしまう。今、買収が決まりかけているニューカッスルのように、一夜で金満クラブに成り代わる可能性を否定することは出来ないと思うのだ。
フットボールから見ても、経営面から見ても、これだというものは見当たらない。おそらく一生変わらないだろうと言えるのは、ライバルチームがアーセナルだということだけだ。僕らはこれからスパーズを見始める人たちに、何を伝えればいいのだろうか。他のクラブへの口撃をしている時間を少し減らして、トッテナムとはどんなクラブなのか、考えて見ても面白いのではないだろうか。