トッテナムはなぜ怪我人が多いのか

ポステコグルーが悪い、とは?

 エヴァートン戦の感想の中で書いていたテーマなのですが、長くなりそうだった上にあの試合だけのトピックではないので切り出しました。今シーズンのスパーズは異常なまでに怪我人が多くなっていて、今や負傷者だけでもスタメンが組めそうであり、なんなら離脱者イレブンの方が強そうでもあるほど。ちなみに最初に断っておくと、理由はこうだという主張コラムではありません。自分の考えていることを書きつつ、教えて欲しいという締め方になると思います。

 ここ最近考えていたことが少しまとまりました。今のスパーズの怪我人の多さの理由として、ポステコグルーの戦術が選手に負荷をかけすぎている。というものをよく目にします。これがあまりしっくりきていないのです。

 まず整理したいのは、信念と戦術は別のものだということ。地続きではあるけれど違う。信念とは目指しているサッカーの方向性であり、戦術はそれを実行する具体策です。

 ポステコグルーの掲げる信念は簡単にまとめると、「90分間攻め続けること」です。勇気を持って前に出ていく、チャンスが多いほどゴールの可能性は増え、ゴールが増えれば試合に勝つ確率が上がる。というもの。守備を軽視しているというよりも、自分の思い描く攻撃サッカーが出来ればこちらの得点は増え、相手の攻撃チャンスは減り勝率が上がる。シーズン中は練習する時間は限られていて、全てを改善することは出来ないのなら攻撃練習を優先したい。ということだと思われます。このニュアンス伝わりますかね。そしてこのスタンスそのものが『信念』と呼ばれる類のものだと思う。

 なぜこの話をしているかというと、信念と戦術が混ざっているような意見をよく見るからです。攻撃に振り切っているスタイルではプレミアリーグを勝ち切るのは厳しいという意見は一理あると思う。そうでないと信じたいけど、明確な反論はポステコグルーが成功しないと出来なそうだ。この信念の先にタイトルはないという意見はわからないでもないが、この信念が怪我人を産んでるというのはわからない。この人ほど極端ではないにせよ、攻撃が最優先だという監督なんて世界中にいくらでもいる。先日のエヴァートン戦でのスリーバックを見て、信念を曲げたポステコグルーは終わりだという論調の意見を見てそれも違うだろうと思った。別に4-3-3であることはポステコグルーの信念ではなく、攻撃的なチームであるための方法の一つにすぎないと思うのだ。

 では戦術について。特徴を羅列していくと、こんな感じかな。
  ・非常に高い最終ライン
  ・サイドバックが内側の高い位置を取る
  ・ウイングはサイドに張ってチャンスメイク
  ・サイドを攻略して低いクロスを逆サイドのウイングが仕留める
  ・ハイプレス志向で相手GKまでも追いかける守備

 そもそもこの記事を書こうと思ったきっかけを少し。他のチームの試合を見ていて、スパーズの戦術って超特殊ってわけでもないよな、と思ったのです。上記の信念の部分は特殊だと思う。まずは守備から構築するんだというチームが多い。ポステコグルーは攻撃に振り切っているから、その点はたしかに違う。ただ戦術を見れば、ハイラインもハイプレスもサイド攻撃も唯一無二というわけじゃない。サイドバックの動きにはクセがあるものの、他のチームだって攻撃時にサイドバックはスパーズの選手以上にスプリントしてサイドを上がっていたりする。それでもスパーズの戦術を語れば負荷が負荷がと言われている。エヴァートン戦の終わりに画面にスタッツが映っていたけど、走行距離で負けていたのでよりそう思いました。

 でも現実として筋肉系の怪我が多くなってしまっている。特にDFラインは深刻だ。これをハイラインの裏のスペースをDFの走力で補おうとしているからだという意見がある。ここにずっと疑問がある。もっと裏付けされた理由があるのかもしれないが、よく見るこの手の発言だけだとまるでハイラインそのものが悪に見える。流石にそんなことはないはずだ。別にハイライン戦術自体はポステコグルーの発明ではない。じゃあ何が原因で負傷者が多いのか。自分なりに仮説を立ててみる。結論から言うと、「戦術を完遂できていないから」だと思う。攻守両面において。

 攻撃時、ポステコグルーが植え付けようとする戦術のうちポジション取りとサイドの深い位置からのグラウンダーのクロスという2点はチームに根付いてきていると思う。クロスは言葉通りなのでいいとして、ポジションについて掘ってみる。

 前から見ていくと、CFは中央の最前線、WGはワイドに開きサイドバックはインサイドの高い位置を取る。アンカーとセンターバックは持ち場を守る。ここまではだいぶオートマティックに行われるようになってきた。自由があるのはインサイドハーフの二人だけということになる。これがまず良くない。インサイドハーフ以外は基本的にマイボールになると決められたポジションを取ることを優先してボールの運び役にはなろうとしない。だから奪っていざ攻撃というタイミングでパスが繋がらなくなる。定位置にみんながついたらそこからは誰かが自分の持ち場にボールを届けてくれるまでは大きく動くことなく待っている。だから相手の守備に混乱は起きず、常にスパーズは窮屈なままだ。自由のあるインサイドハーフは比較的プレッシャーの緩いサイドに流れてボールに触れるも、他の選手が自分が空けた中央のエリアに動いてくれはしないので結局パスの出しどころはなくて守備の網に捕まってしまう。

 そんな一連の状況をしばらく見ているような気がする。就任時から聞いていたポステコグルーの発言からすると、「選手がポジションに縛られないサッカー」を掲げていたはずなのに、今は縛られすぎてボールが回らないサッカーになっている。リスクを取って持ち場を離れるなという指示をポステコグルーがするとは思えないので、これは改善したいところだ。何故このような状況になっているかというと、出しどころがないことがわかっているのでボールをもらってからの次の展開がイメージできないから。爆弾ゲームの爆弾を抱えたくないから。

 ボールを動かすために顔を出す勇気を全員が持たないといけない。味方を信じて爆弾を受け取らないといけない。マークを外してスペースに走ってボールを要求する選手があまりにもいない。だからすぐにボールを失ってしまい、定位置まで上がっていた選手がスプリントして戻ることになるのだと思う。攻撃のために走らなかったツケを守備のために払っていると言える。そして往々にして守備のために走らされている時の方が肉体的にも精神的にも負荷がかかる。だから怪我が増える。失い方が悪いので失点が増える。

 まず直近の目標はポゼッションを安定させることだ。そのためにはみんなが味方を助けるためにボールホルダーの選択肢になる意識をすることだ。とてもシンプルなことを言っているようだけど、実はこれは2020年のポチェッティーノの末期からの変わらない課題だと思う。当時から「試合を決める責任を感じてプレーしているのはハリー・ケインだけだ」なんてことをよく書いていたのを思い出す。今更のケインロス。

 各監督の上手くいっている時期には隠されていたものの、しばらくすると決まって簡単なパスも繋がらないチームになってしまう。人任せにしてボールを怖がってしまうことこそが長年抱えている根深いチームの問題の一つだと思う。だからこそ僕は勇気を持って攻めろと言い続けるポステコグルーがクラブを変えてくれると信じたいのかもしれない。

 守備についてはプレッシングの話。ソランケがまずどんな場面でも全力のプレスで守備を始める。続いてウインガーまでは連動するもそれより後ろの選手はまちまちなことが多い。本当はインサイドハーフも前に出て相手の中盤を捕まえないといけないはずだが、奪いきれないのが怖いのと体力的にキツいのとで出ていかなくなると相手は簡単にボールを運べてしまう。こっちのFWたちとMFの間がスカスカだから。これは中盤が刈り取りに出た後にDF勢が前向きに出ていけない時も同じことが起きる。ハイプレスの狙いは相手陣内で奪い切ることなのに、腰が引けると相手にスペースを作るだけの戦術になってしまう。

 これも前から行くなら全員で勇気を持って出ていくしかない。個人的にはたまには引く時間があってもいいとは思うが、ソランケが愚直に追っていくのでそうはなっていない。後ろがついてこないのに前線が頑張っているだけの無駄走りになり、FWは疲労を溜め、簡単に押し込まれては守備陣も疲弊し失点と怪我が増えているのだ。

 攻撃はボールが上手く回らないので良くない奪われ方をして無駄に走り、守備ではバラバラに追いかけてただただ疲れ、そのせいで押し込まれて苦しんでいる。守備時のハイラインと攻撃時の位置取りというポジショニングの部分と、「攻撃的に」「ハイプレス」「サイド攻撃」というテーマは浸透しているものの、個人で実現できることだけは頑張っていて、チームとしての完成までは程遠い。その中途半端な部分がピッチ上で悪いところを強調するように出てしまいその結果、本来想定していないスプリントが増えて怪我をしているのだと思う。

教えてくださいませ

 ポステコグルーが悪い!ではなく何がどう問題なのか。それを自分に納得させたかったのでこれを書きました。少なくとも今日出した結論だと、もっとチームとして成熟していけば怪我も減るかもしれないっていう期待が持てる。ポジティブでいる努力だと言ってください。

 理由はこうだと主張するコラムではないと言っていたのに、書き始めたら自分の中でより整理されていって、いつの間にか主張していました。みんなはどう考えているのか教えて欲しいなっていう思いは変わっていないのでコメント欄やXに書いてくれると嬉しいです。答え合わせは存在しないので正解も間違いもありません。

 お久しぶりのコラムでした。長文お読みいただきましてありがとうございます。また。

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